川上氏:
あと,外から見ていた時は全然そう思わなかったけど,ジブリに入ってみて発見したことがあります。
4Gamer:
それは?
川上氏:
宮崎吾朗さんは天才だ,ということです。彼は天才だと思うんですよ。そうじゃないと思っている人が多いと思うんですけど,間違いなく天才。
4Gamer:
それは,仕事で接してみてそう思ったということですか。
川上氏:
だって,例えば「ゲド戦記」って,彼が生まれて初めて,いきなり映画撮らされて出来た作品ですよね。それって凄いことだとは思いません? その前は,彼は環境デザイナーとして公園や庭を作っていたんですよ。アニメーターとしての下積みをしていた,とかではなくて。
4Gamer:
確かに……。
川上氏:
突然「監督をやれ」って言われて,それで映画ができること自体がまずおかしいわけですよ。だから,僕は吾朗さんが「なんでそんなことができたんですか」って鈴木さんに聞いたんですよ。
4Gamer:
なんという答えだったんですか?
川上氏:
鈴木さんが言うには,父親が家に帰ってこないから,父親との唯一のコミュニケーションが,父親のアニメを見ることだった。だから,父親が作ったアニメのほとんどのシーンのレイアウトを暗記していたっていうんですよね。
4Gamer:
え。
川上氏:
だからゲド戦記っていうのは,過去のジブリ作品,宮崎アニメのオマージュみたいなシーンがたくさんありましたよね。あれは,吾朗さんの中にあるジブリアニメの構図をたぐって,そのつぎはぎで作品を作ったからだと言うんです。でもそれって,普通の人間にできる所業じゃないと思うんですよ。
4Gamer:
宮崎吾朗さんは,メディアの露出もそこまで多くはないので,僕は純粋に分からないんですけど,端から見ていて思うのは,「勝ち目のない戦い」をしている方だな,ということなんですよね。
川上氏:
そう。吾朗さんは,とても苦労している方なんですよ。全然,楽な道を歩んでない。酷い作品を作ったら「やっぱり息子は駄目だ」と言われ,良い作品を作っても「父親のおかげだ」とか言われる。彼はそういう道を選択したわけじゃないですか。
4Gamer:
勝ちの目が見えないですよね。普通は「やれ」って言われたら逃げちゃうと思います。
川上氏:
正解がないルートを選んでしまっているんですよ。吾朗さんは。勝ちのカードがないゲームをやってる人なんです。でも,彼は周りに何を言われようとも,へこたれていない。前を向いて頑張っていますよね。
もちろん,宮崎 駿さんほどの実績は残していないので,これからなのだとは思いますが,やっぱり宮崎 駿の天才性というのを受け継いでいる人だな,と思います。それに……。
4Gamer:
それに?
川上氏:
いや,宮崎 駿さんも相当気難しい方なんでしょうけど,吾朗さんも大概ですよ。やっぱり親子だな,あの二人は,っていうところが,僕の一番の発見です(笑)。